たまには

島村利正『奈良登大路町・妙高の秋』(講談社文芸文庫、2004年、文庫版新編集)です。
瀧井孝作を介して志賀直哉に学んだ著者の、好短篇を集めたものです。著者の故郷の、信州高遠を舞台にした「仙酔島」は、高遠に鰹節を売りにくる男が頓死して、葬儀をだしたあと、男の実家の備後福山と連絡がつき、主人公の老女がそのまちをおとずれ、男の家族の案内で鞆の津の風光をみるという話なのですが、そうしたしみじみする作品が、1944年10月号の『新潮』に載ったのだというので、戦時下の精神のありどころも考えさせられます。
時評をやると、文芸誌をよまなければなりませんから、どうしても駄作に当たることもあります。そういうときに、こうした短編集を読むのも、気分転換にはいいものです。