踏み絵

金石範さんの『過去からの行進』(全2冊、岩波書店)です。
1991年を舞台に、かつて1984年に〈南山〉(KCIA)によってとらえられ「作家〈金一潭〉によって自分は反韓国の活動家になった」というデッチアゲの〈反省文〉を書かされた男が、その作家に〈韓国入国を許可するかわりに韓国籍をとらせる〉ための工作を命ぜられるというストーリーを軸に、国とは何かを問いかける作品です。
もともと〈朝鮮籍〉というのは、日本が大韓帝国を併合した後、そこの人びとを〈朝鮮戸籍〉として、別枠にして扱ってきたものを、そっくりそのまま移管したものです。ですから、大韓民国としても、そのまま自分たちの仲間として在日のひとたちをあつかえばよいはずだったのです。
ところが、南北分断という状況の中で、北の影響力をなくすために、誰かが考えたのでしょう。在日の人は、韓国籍を取得しないと入国させないという政策が実行されます。もともと在日の人の多くは、現在の韓国の統治地域に本貫がある人が多いのですから、故郷へ行くときに韓国籍が必要となれば、そうせざるを得ない人たちも多いことでしょう。それを逆手にとったということでしょうか。