理想の先 

福永武彦戦後日記』(新潮社、2011年)です。
1945年から47年にかけての福永の日記が収められていて、当時の世相の証言にもなっています。
福永は終戦直後から、加藤周一中村真一郎たちと新しい雑誌を作り、新しい文学の担い手となろうと決意します。そのプランが記録されているのですが、かれらを中心とする創作のページ、西洋の現代作家を中心とする研究のページ、というふうにわけられ、そこで取り上げられる予定の作家もリストされます。ヘルマン・ヘッセロマン・ロランジュリアン・グリーンなど、のちのかれらが関心をもっていく名前があるのですが、そこに永井荷風の名もあります。
実際には、この雑誌は日の目をみないのですが、その計画をもちながら福永が就職した放送局の月給が、ほぼ当時の荷風の原稿料の1枚分くらいなのだそうです。そうした格差も、この雑誌の挫折とかかわりあるような気もします。
そうして、福永は病気とたたかいながら、妻との関係に疲労していくのです。だんだんと日記の内容も陰鬱になるのが、さびしいところです。


ぜんぜん関係ない話ですが、野党第1党が不信任案だの問責案だのを出そうとしているという報道があるようですが、一事不再議という原則を破壊する行為だと批判しないメディアは、何を考えているのでしょう。