師弟

清岡卓行『大連港で』(福武文庫、1995年、親本は1987年)です。
著者が1980年代のはじめごろ、大連を訪れたときのことをベースにした連作という仕立てです。後にセリーグ事務局につとめる作者らしく、大連での野球の思い出もあり、田部武雄や松木謙治郎の記憶も登場します。
著者は、戦後引き揚げまでのあいだ、日僑学校の教員をしていたそうです。中学生を相手に、英語や数学を教えていたのだそうです。日僑学校といえば、青木陽子さんの「紫陽花」という作品に、小学校時代にそこに学んでいた人物が登場し、過去の植民地時代をどう考えるかを問いかけるのですが、清岡さんは、教える側としてかかわっていたわけです。大連で成人した(それだけ租借地としての歴史も長かったわけですが)清岡さんと、教わる側だった青木作品の登場人物とでは、やはり土地への思いは違うのでしょうし、子どもたちに環境をととのえるためのおとなたちの心配りがあったことも、忘れるわけにはいかないようです。そこが、難しいところではありますが。