海と陸

小田実『海冥』(講談社文芸文庫、2000年、親本は1981年)です。
太平洋のいくさにかかわるさまざまな事象を描く連作小説集です。といっても、登場人物が共通するわけではなく、太平洋でのいくさがつらぬくものになっています。
作品が書かれたのは今から30年以上も前のことですから、登場人物には、直接戦場に行ったひとや、肉親を戦場で失ったひとが多くあらわれます。そこは、現在との時のへだたりを感じてしまいます。
大陸でのいくさは、兵士としての敗北よりも、民間人が引き揚げなどで苦しんだ記憶のほうが語られることが多いのですが、太平洋の島のいくさは、軍隊そのものが死地においやられるほうが見えているといえるのでしょう。もちろん、軍だけでなく、労役のために駆り出された人たちや、民間の住民たちもいますし、なにより、戦場にさせられたそこの人びとの姿も忘れるわけにはいきません。
そうした広がりのためには、連作という方法が、たしかに適しているでしょう。