ひと山越えて

林田遼子さんの『風綿』(本の泉社)です。
作者が中学を卒業して勤務した紡績会社のこと、夫と不和になって自立をめざした働いたこと、心を病んだ妹とのこと、と作者の生活に取材した作品をあつめた短編集です。特に、妹の発病と死を描いた作品が、兄夫婦とのかかわりや、妹へのみずからの対応とを含めて振り返る主人公の心情がよくあらわれています。妹さんが亡くなられて、いろいろなことを客観視できるようになって、これらの作品が生まれたのでしょう。
紡績工場から上京して京浜地区の工場の労働組合の書記としてはたらき、その後自立していく戦後女性の生活史としても、興味深いものがあります。