封印

申京淑さんの『母をお願い』(安宇植訳、集英社文庫、2011年、原本は2008年)です。
ソウルにやってきた老夫婦が、地下鉄の駅ではぐれ、妻が行方不明になります。その娘・息子・夫などの視点から、母や妻をめぐっての記憶がよみがえり、自分たちの半生をふりかえることになるのです。
行方不明の女性は1936年もしくは38年生まれという設定です。戦争のときは人民軍に襲われかけたり、そのあとの時代もしたたかに生きてきた庶民の生活は、当時の韓国にはありふれたものだったのでしょう。彼女は字が読めず、ソウルに出した上の息子からの手紙も、娘に読ませ、返事を代筆させていたというのです。
ただ、解放前の生活について、ほとんどふれていないというのは、やはり書きにくいものがあったのでしょうか。そこは、日本の読者としては、気にはなるところです。