棄民

北朝鮮へのエクソダス』(テッサ・モーリス-スズキ著、田代泰子訳、朝日文庫、2011年、親本は2007年)です。
1950年代末から行われた北朝鮮への〈帰還事業〉に関して、日本政府の中に〈厄介払い〉をしたいと思っていた向きがあって、それがこの事業を後押しした要因のひとつだったと論証しています。
戦前は〈内鮮一体〉だとかいっておいて、戦後になるとてのひらを返したように〈外国人だから国民と同様の社会福祉は受けられない〉とする。生活保護受給者に対するバッシングは、60年近くたった現在と同様に行われたようです。
国のなかに多民族が共存する関係を、〈大日本帝国〉時代もきちんと築いていかなかったことが、戦後は〈日本は単一民族国家〉だといいだす政治家も生み出していくわけですね。

宮城県で文学活動をしていた原史江さんが亡くなられたそうです。彼女は、樺太からの引き揚げを題材にした作品を書いていますが、〈引き揚げ〉も〈帰還事業〉も、国の一方的な都合でひとびとが動かされたことの結果だと考えなければいけないのですね。