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伊井直行さんの『さして重要でない一日』(講談社文芸文庫)です。
表題作は1989年、併収の「星の見えない夜」は1991年の作品です。
いずれも、伊井さんのいう〈会社員小説〉にあたるもので、会社内の人間模様をえがくことを主眼にしています。伊井さんのいう〈会社〉というのは、民間営利企業で、〈会社員〉というのは、その中でも事務や営業の部門にいる人を指しているようです。近代からの資本主義社会において会社の存在は日に日に重くなっているのに、それを描く文学はほとんどないと伊井さんは考えているようです。
そういわれてみれば、経済小説のようなある意味英雄物語的なものとか、軍隊を日本社会の縮図としてとらえて組織論を語るものとかはあるのでしょうが、そこに人間模様をみるものは少ないということでしょうか。『労働現場を描く』というと、どうしても『ものづくり』の世界(昔の中里喜昭とか)に目がゆきやすいこともあるでしょうし。
ちょっと大きなものの入り口にふみこんでしまうようです。