復讐

山田風太郎『戦中派焼け跡日記』(小学館文庫、2011年、親本は2002年)です。
著者の日記が文庫で読めるのは、とりあえずここまでですので、『虫けら』『不戦』とつづいた3部作のような形になります。
医学生である著者は、敗戦という現実の中で、過去の残滓もひきずっています。平和憲法に対して冷笑を浴びせ、将来的にはアメリカを見返し、ソ連を卑怯な攻撃をしてきた敵だとみなしています。
戦時下の教育のもたらした認識とはいえ、そう考える山田青年の意識を、まったくよそものとは言い切れません。1946年に、闇に頼りながら生きている若者の認識を、直接の資料として読むことができる貴重なものにはちがいありません。
ただ、あくまでも、『虫けら』から読むことが必要です。この『焼け跡』だけでは、山田青年の思考を勘違いする危険がありそうです。
その意味で、3部作がすべて別の出版社から出ているのは、どんなものでしょう。