心くばり

中野重治書簡集』(平凡社)をちまちま読んでいます。1945年の分まできました。
1945年12月16日付の、堀辰雄あての手紙があります。すでに『堀辰雄全集 別巻1』(筑摩書房、1977年)に収録されているので、今回はじめて活字になるのではありませんが、戦後まもなくの、新しく文学運動を始めようとするときの、中野の意識がよくあらわれています。そこで、追分で病臥している堀に対して、新しい文学団体に参加してほしいと、中野は言うのです。「君にはいつて貰ふだけでなく中央委員にもなつてほしいといふわけだが、中央委員といつても決して面倒はかけぬ積りだ。いひかへれば、君といふ作家が追分に寝てゐても、それで実質的な幹部の役目が果せるやうでなければ、民主々義も、純文学も、ないと思ふわけだ」と、堀にすすめます。
結局のところは、堀は文学団体にははいらないのですが、ここを読んだときに、湯河原で喘息の療養をしている浅尾大輔さんのことを考えました。かれも、湯河原から東京に出ること自体がたたかいであるようです。