一歩おいて

藤澤清造根津権現裏』(新潮文庫、2011年、親本は1922年)です。
西村賢太さんが芥川賞を取って以来、脚光を浴びている作家の、第一長編小説の文庫化というわけです。
友人の死に直面した主人公の生活と苦悩を描いているのですが、当時の〈破滅型〉の私小説のひとつといってよいのでしょう。
一気に読ませる筆力はあるのですが、やはり友人の死の状況を上京したその兄に説明するという、全体のわくぐみが、切迫感をやや削いでいるようにみえます。そこが、その後作者が忘却においやられる一因かもしれません。短編集も文庫になりましたし、そこも含めて考えたほうがわかりやすくなるでしょうか。