100年

『明治文学全集』の『矢野龍渓集』からもう少し。
1902年に書かれた、「新社会」という作品があります。文学作品というよりも、未来の理想社会のありかたについて述べた論説めいたものです。自由競争社会の害悪を述べ、〈官〉ではなく〈公〉に生産をゆだねよという、ある種の社会主義的な立場にたちます。前に書いた「浮城物語」が、列強に伍して生き残るための方策を考えていたのに対して、考え方の転回がみられます。
物語は、20世紀初頭の日本人が、社会変革を果たして50年くらいを経た〈新社会〉にはいりこみ、かつて変革に活躍した老人からいろいろと話を聞き、施設などを見学するというものです。
ですから、日本人はたずねます。〈生産を社会化したら、創意工夫がなくなって技術が停滞したり、労働意欲も低下するのではないか〉と。それに対して、〈創意工夫そのものを表彰して、待遇に反映させる制度もあるし、この社会になってある程度の年月も経ったので、教育の成果もあって意欲の問題は解決されつつある〉と答えるのです。ある意味では楽観的といえるのでしょうが、そうした問題点を、作者自身が認識していたことは、記憶にとどめてもいいでしょう。
細かいところでは、水産資源を育てるために、植林して海を荒らさないようにしようと努力し、50年経ってそれが成就しつつあるというところなど、今の時代でも通用するようです。