かたち

原武史さんの『鉄道ひとつばなし』3(講談社現代新書)です。
近現代史と鉄道を結びつけるのが彼の得意なのですが、こうした短文コラム集にも、そうした流れは発揮されています。東大合格者数の変動に、鉄道の開通が劇的に関係した例として、西日暮里の存在をあげたところなどは、たしかにそうかもしれないと思わせます。
さて、その中のエピソードなのですが、彼があるとき、佐賀で講演をすることになったそうです。そのとき、余裕をもって九州入りするつもりで、前日に福岡空港に到着する予定をたて、航空券を買ったというのですね。ところが彼は、1日間違えて、その日ではなく、講演当日に空港に出向いたというのです。けれども、切符はそのまま適用できて、彼は気づかないまま、1日遅れの便にのって福岡に向かったというのです。
彼も書いてますが、鉄道ではこうしたことはありえません。新幹線では、入出場するごとに、乗車券に改札を通過した日時が刻字されますし、有効期限のきれた切符は自動的にはじかれます。それが、日本の鉄道の正確さを保障してきたともいえましょう。

今回の地震で、多くの鉄道が被害にあっています。かつて水害で鹿児島交通高千穂鉄道廃線に追いこまれたような事態も起こりえるでしょう。現に、地震前から、岩泉線は不通状態が続いていました。何日か前に、『貨物時刻表』のことに触れましたが、貨物だけでなく、旅客部門でも、鉄道のないエリアができることも想定されます。実際、東北道が復旧したように、道路のほうが回復は早いですし、自動車輸送がますます物も人も運ぶかもしれません。それは、時間の概念を変えることになるのかもしれません。自動車の場合、鉄道のように、きちんと時刻表どおりに運行できる保障はないのですから。生活のありかたも変わってくるかもしれません。