作っておけば

『民主文学』11月号に、鶴岡征雄さんの作品が載っています。「単線駅舎のある町で」というタイトルで、1952年の茨城県のある町を舞台に、少年の心の動きを追った作品です。
この作品で、大きな舞台装置となるのが、この町に大相撲の一行が巡業にくるというところなのです。1950年代のことですから、当然一門ごとの小さな単位での興行となります。彼の住む町に来るのは、立浪・伊勢ヶ濱連合の一行です。それでも、横綱羽黒山・照国の二人がそろうのですから、けっこう豪華な顔ぶれです。
その、羽黒山や照国、さらには大関もつとめた名寄岩と、当時のベテラン力士たちは、戦争の時代をくぐりぬけています。その年月が作品でも意味をもっているのですが、それだけ、当時の記録なども、戦時中から戦後の混乱の制約を受けています。写真も不十分ですし、動画となると、なおさら貴重なものになっています。
今回、ベースボール・マガジン社が、当時の映像をDVDにのこして、分冊百科のかたちで頒布しようというのは、けっこう大胆な試みだといえましょう。全20巻のDVDで、1938年からの映像を記録して、それを隔週、1000円台の価格で全国展開して販売したのは、情報を広げる上で、大切なものになるでしょう。
もちろん、相撲協会の映画部に保管されていることは重要です。けれども、DVDにして広く展開しておくことで、亡失の危険が分散されることもまちがいないところです。本でも、写本から刊本になるところで、文献の散佚の危険が少なくなるのと同じです。
その点で、電子書籍は、だれがデータを管理するのでしょう。こちらに誤解があればただしていただきたいのですが、どこかのメインからダウンロードするのなら、そのメインが破壊されたら終わりです。そのへんの説明があるのでしょうか。報道の限りでは、よくわかりません。