偽国

山口猛さんの『幻のキネマ満映』(平凡社ライブラリー、2006年、親本は1989年)です。「満洲国」の国策会社であり、現地の人びとに映画を見せることを目的とした会社、満映を追ったドキュメントです。当時「満系」と呼ばれた中国の人たちに映画を見せるという必要上、どうしても中国人の才能を発掘していかなければなりません。そういうことが、日本人と中国人との間を、開拓団のような一方的な収奪とはちがった関係にしていったようです。「満洲国」が崩壊したあとも、一定数の人が残って、映画の技術を教えていったというのです。
これに限らず、けっこう日本人はすぐに中国から引き揚げずに、中国人にさまざまなことを伝達していったということもあったようです。中国側としては、必ずしもそれを前面に出しているわけではないようですが、そうした微妙さはあるようです。
草明という作家に、鞍山製鉄所をモデルにした作品、『風にのり波をきって』(原著は1959年、日本語訳は新日本出版社から1964年に出ています)というのがあるのですが、そこには、長く製鉄所に勤めていたベテラン技術者が登場します。当然、偽満洲国時代も、そこに勤務していたわけですが、そうした人物が存在しているところに、難しさもあるのでしょう。