海のむこう

ヴァージニア・ウルフ灯台へ』(御輿哲也訳、岩波文庫、2004年、原著は1927年)です。
スコットランドの別荘地での10年を隔てたできごとを書いています。灯台に行くことがかなわなかった10年前と、灯台に向かいつつある今と。しかしその間には、母親の死や姉の産褥死、兄の戦死などというできごとが通り過ぎていったのです。
日常の連続のなかに、ひょっとすると手が届くかもしれない、海の向こうの灯台。しかし、現実に手に入るときは、その予想をはずしているのです。
きょうの続きに明日があると、誰でも想像したいものです。しかし、そうはいかないことを、作者は世界大戦の日々を過す中で感じ取ったのでしょう。そうした、転換期を、ひとつの家族とその周辺の人たちを、さりげなく描くことで、実現したといえるのかもしれません。
ずっと、福永武彦の『風土』を思いながら、読んでいました。