地位と育ち

奈良達雄さんの『若杉鳥子 その人と作品』(東銀座出版社)です。
若杉鳥子(1892-1937)は、茨城県古河市出身の作家で、プロレタリア文学の分野で活躍しました。奈良さんは、同郷の先人として、若杉鳥子の業績の掘り起こしをずっと続けてこられて、その成果の中間報告的な本となっています。サイズも新書判で、コンパクトなものです。
鳥子は、子どものころはけっこう複雑な家庭に育ったようです。しかし、その後は子爵家の庶子と結婚して、この本にも引かれた松田解子さんの証言によれば、亀戸界隈の松田さんの家を訪れるときは、けっこうその土地にあった格好をしてきたけれど、やはり「はきだめに鶴」という感覚を抱かせるほど上品なものをもっていたというのです。
いわゆる社会的な地位を得ても、それにおごらず、庶民の視点から文学活動をしていた若杉鳥子はもっと知られてもいい作家ではあろうと思いました。

奈良さんの本への注文としては、とりあえず略年譜か簡単な著作目録でもあれば、もっと彼女の全体像がつかめたのではなかったかという点でしょうか。