専門××

常石敬一さんの『医学者たちの組織犯罪』(朝日文庫、1999年、親本は1994年)です。常石さんはご存知のとおり、関東軍731部隊の研究を長く続けている方で、こここではそこにかかわった医学者たちの動向に焦点をあてています。
石井部隊での人体実験で得られたデータを、医学の「進歩」のために戦後になっても使用している人たちの存在がここから浮かび上がってきます。
『研究が出来る』という環境があたえられたときに、専門家がどのようにふるまうのか、ということは、科学者の倫理と関連してよく語られてきましたし、上九一色村の例の施設にこもっていた人たちが問題になったときも、あらためて話題にされたように思えます。
それよりも、そうした実験に基づく研究をしていたことが、公刊された文献に明記されていたり、著者たちの聞き取りに応じていたりと、隠していないことが、わかります。最近の『「美しい国」をめざしている』人たちが、あれこれと策を弄して、あったこともなかったことにしようとしていますが、こういうふうに文献を掘り起こすことで、「あったことはやっぱりあったことなんだ」という認識を、ちゃんともっていかなければならないのだと、あらためて思います。前に加東大介さんの本を引用したことがありましたが、お医者さんのなかにも、当時の自分がやったことをきちんと見据えている方もいらっしゃるようですし、そうした経験とあわせて、過去の事実を明らかにしていくことが大切なのでしょう。