覚悟

山田忠音さんの『奔流』(光陽出版社)です。
山田さんは、1997年に第2回「民主文学新人賞」に佳作受賞を果たした方で、新潟で文学活動をしていました。しかし、彼は、小腸クローン病という、小腸に潰瘍ができていく難病にかかっていて、小腸を徐々に切除していたのです。その病は、2006年、ついに彼の命を奪ってしまいました。
そうした彼の、『民主文学』や、新潟の民主文学の支部誌にのせた作品を集めたのが、この本です。そこには、鉄工所ではたらく主人公が、はたらく人たちの待遇をよくしていくために、労働組合をつくっていくプロセスが描かれます。しかし、工場は不況の中で倒産してしまうのです。そうした彼の労働運動の中の生活と、病気とのたたかいが描かれます。
こうした、生命のぎりぎりまで一所懸命に生きている人たちの姿は、とおりいっぺんのことばでは表現できないような強さを感じさせます。しかし、そこでことばをなくしていては、表現にはなりません。そうしたぎりぎりのところに立っているところからの緊張が、山田さんの作品にはみえるのです。「命を削る」というのが、比喩ではなくとらえられます。

大庭みな子さんがなくなられました。結婚前、津田塾に通っていたころ、佐多稲子の家でおこなわれていた、新日本文学会北多摩班の集会にもしばしば顔を出していたと、佐多稲子も窪田精も書いています。そうした勉強が、大庭さん晩年の、夫婦のつながりを描いた作品にもつながっているようにも思えます。