ことばではないけれど

若桑みどりさんの『ケーテ・コルヴィッツ』(彩樹社、1993年)です。
20世紀初頭に活躍したドイツの版画・彫刻家のケーテ・コルヴィッツの伝記です。宮本百合子魯迅が、彼女の作品を論じているので、名前だけは知っていましたが、こうした形で簡単な紹介する本が出ていたのはこの本を手にして初めて知りました。若桑さんは、社会主義リアリズムなるものには反発を覚えているようですが、彼女の父が、小林多喜二の母と交友をもっていたなどの、そうしたプロレタリア文学などとの縁もこの本を通じて知ることができました。
ナチスが台頭してくる時代のなかで、芸術活動を続けることのむずかしさと、その中でつくりあげた作品のもつイメージの喚起力というものは、こうした絵画や彫刻の中に表れています。文学の世界では、ブレヒトやゼーガースがおこなったことは、ドイツ語をそれぞれのことばに翻訳しなければ通じていかない(ゼーガースの作品は、戦前の日本ではまったくといっていいほど知られていなかったのか、宮本百合子も言及したものはなかったように記憶しています)けれど、版画や彫刻はその姿でメッセージが伝わるのですから、そうした力が、きっと当時の人たちに勇気を与えたのでしょう。