選択のむずかしさ

岩波書店の『図書』の4月臨時増刊号で、岩波文庫創刊80年記念ということで、諸家のアンケートが載っています。『私の三冊』ということで、岩波文庫を3点あげるものです。いろいろな考え方があっておもしろいのですが、それにならって、ここでも「私の三冊」(3点)を考えてみようと思います。
思いつくままともいかないのですが、まずは、
『ガルガンチュワとパンタグリュエル』(ラブレー渡辺一夫訳、全5冊)でしょうか。中学から高校にかけてのころは、毎年一度は読み直していました。その中の、自由を求める精神と、適度(過度?)なユーモア、さらにはそこからヨーロッパをつくった古典古代や聖書への関心が生まれてきたということでも、重要な作品だったかな、と思います。これがなければ、同じ岩波でギリシアの作品やら旧約聖書やらを買い揃えようとは思わなかったでしょうから。次は、
『読史余論』(新井白石かな。武家の世の中がどのように生まれ、発展していったのかを考えた書物です。前にここで『折たく柴の記』についてふれたときに、経済政策について考えたことがありましたが、そこにもみられる政治思想家としての筋の通し方というものは、日本の思想の中の合理的な思考のあらわれだと考えていいものだと思います。三つ目は、
『迷路』(野上弥生子、全4冊)ですね。近代日本文学の良質な部分はほかにもあって、岩波文庫でいろいろと読ませてもらったのですが、(幸田露伴とか黒島伝治とかあるのですが)、長編小説としての幅の広さという点と、戦前の日本社会を描いているという点で、しっかりした作品だと思います。
と、赤・黄・緑の帯から1点ずつ選びましたが、青と白の帯もあるのだから、5点という選択の方法もあったかもしれませんね。さて、そうすると、説明抜きでとるなら、青からは荒畑寒村の『谷中村滅亡史』、白からはジョン・リードの『世界をゆるがせた十日間』になるでしょうかね。でも、悩むな。