直接の経験

ドス・パソスの『さらばスペイン』(青山南訳、晶文社、1973年、収録された文章は1937年から1939年にかけて発表されたもの)です。
ドス・パソスの代表作といわれる『U.S.A.』は、岩波文庫で、全体の三分の一ほどしかまだ出ていないので、全体的なことはよくわからないのですが、メキシコの内戦を通して、当時のアメリカ社会を描こうとする野心を感じました。
それに比べると、この本に収められた文章は、晦渋なところが目立ちます。それはきっと、著者が見たものが、スペイン内戦の帰趨にとって不本意な結果を予測させるものがあったからでしょう。たとえば、「ホセ・ロブレスの死」という文章では、著者の友人がどうもスターリニストの手によって処刑されたらしいという状態が述べられています。当時のPOUMとスペイン共産党とが対立関係にあったことは周知のことだとは思いますが、そのどちらが妥当であったのかは、いまは判断できません。どちらにも言い分はあったのだとは思いますが、チリのアジェンデ政権をつぶした一因が、急進派の政策であったことはいまははっきりしているのだから、オーウェルの『カタロニア賛歌』にしても、そこで書かれていることがどうなのかは議論の余地があるように思います。もちろん、直接見たことが持っている重みはわかりますが。
そういう意味ではスティーブ・ネルソンの『義勇兵』も、もっと語られてもいいのではないかとも思います。