外と内

温又柔さんの『来福の家』(白水Uブックス、2016年、親本は2011年)です。 温さんは台湾出身なのですが、おさないころに、両親の仕事の都合で日本に住むようになり、日本語の世界のなかで生きてきた方です。カズオ・イシグロの逆のような感じですね。 この…

重複

岩波文庫から大岡信の『日本の詩歌』が出たのですが、岩波現代文庫で出たものに、池澤夏樹の解説を付加したものです。すでに、それを持っていたことをすっかり忘れて、だぶって買ってしまいました。こういうこともあるのですね。解説料として700円払ったよう…

議論のはて

石川啄木『雲は天才である』(角川文庫、1969年)です。 表題作ほか計4作品を載せているのですが、啄木自身が生活者としてやはり何か欠けている点があるのか、登場人物たちもいろいろと議論をしてはいるのですが、どうしてもそこに血が通っていないようにみ…

未練

希望の党から立候補するための誓約書みたいなものが、報道の画面に出てくるのですが、そのなかに、「外国人の地方参政権の付与に反対」という趣旨の文言があります。 代表の方が、関東大震災のときの朝鮮人虐殺があったと認めないかたですから、当然といえば…

吟味すれば

選挙になると、「しがらみのない」というフレーズが人気のようですが、投票してくれた人を「しがらみ」と思うということは、「自分は好き勝手にやりたい。投票してくれた人の気持など考えるつもりはない」という意思表示になると思うのですが、それでもそう…

広がり

『江戸詩人選集』(全10冊、岩波書店、1990年〜1993年)です。 共通一次試験の第1回は1979年だったのですが、そのときの漢文の出題は、菅茶山に関する文章でした。富士川英郎 『江戸後期の詩人たち』(近年平凡社の東洋文庫にはいったとか)に引用されていた…

あっという間に

岩波書店の新刊案内に、オンデマンド出版の告知があります。9月にあるのが、『加藤周一自選集』の中から何冊かが選ばれています。 まだ、刊行されてから10年もたっていないのですし、ふつうに書店でも在庫があるのではないかと思うのですが、もう、通常の形…

4年ぶり

ひさしぶりに岩手県の沿岸部に行きました。あちこちで防潮堤がつくられていて、道路から海が見えなくなるところが多くなっていくようです。 山田線の三陸鉄道に移管する部分の復旧工事も少しずつ進んでいて、山田の駅も跨線橋が復活しています。 まだ地図の…

現場感覚

高田高史さんの『社史の図書館と司書の物語』(柏書房)です。 神奈川県立川崎図書館は、産業系の資料に特化した図書館なのですが、そういう関係で、いろいろな会社の社史が集められています。著者は、そうしたものをどのように活用していくのか、そもそも図…

個か孤か

井田茂さんの『系外惑星と太陽系』(岩波新書)です。 このところの系外惑星の発見にともなって、太陽系の成立に関しても、系外惑星系の成立と太陽系の成立とを両方とも統一できるようなモデルが必要になってきたというのだそうです。 物理や化学の世界では…

さきがけ

荻野富士夫さんの『北洋漁業と海軍』(校倉書房、2016年)です。 20世紀の北洋漁業と、日露関係のなかで、海軍がどう動いてきたか、民間業者との関係はどうだったのかを追求したものです。 実際には、1920年代までは、現地に根拠地をおいて、そこで加工した…

残し方

三崎良章さんの『五胡十六国』(東方選書、2002年)です。 中国の4世紀から5世紀にかけて、黄河流域より北に割拠していた勢力について、それぞれの興亡を簡潔に述べた一般向けの本です。こうしたものは、たしかに珍しいわけで、正史では『晋書』に「載記」と…

露骨です

防衛大臣の発言、どうみても〈いざというときはクーデターをおこすぞ〉という恫喝ですよね。政権中枢が更迭を拒むわけです。

後退戦

中本たか子『耐火煉瓦』(竹村書房、1938年)です。 1932年の川崎の日本鋼管の下請で耐火煉瓦を作っている会社を舞台に、そこに働く労働者の姿を描いた長編小説です。書き下ろしで刊行されました。 1932年といえば、実際には労働運動が盛んだったころなので…

ダイアリーから

はてなダイアリーでは、「ねこぱんだ雑記」と名乗っておりますが、だいありーのほうと、こちらと作っていこうかなとも考えています。

支配のすがた

小野容照さんの『帝国日本と朝鮮野球』(中公叢書)です。 日本統治時代の朝鮮における野球の状況を、中等野球だけでなく、社会人野球にまで広げて調査しています。むかし、金賛汀さんの『甲子園の異邦人』では、中等野球の朝鮮代表は〈京城中学〉に代表され…

来し方

神林規子さんの『竜門の手まり唄』(民主文学館)です。 表題作は、作者を思わせる主人公が、奈良女子大を卒業するころから、県内の学校に就職できるまでのことを描いた作品で、ほかに収録された短編は、学生時代と現代を結ぶものが多く収められています。女…

時代の影

金素雲訳編『朝鮮童謡選』(岩波文庫、初版1933年、改版1972年)です。 編者が1920年代半ば、東京に住んでいた朝鮮人の人から収集したものと、新聞社が集めたものを中心にして、『諺文朝鮮口伝民謡集』というものを出したのだそうですが、そこから選んで日本…

内向きとゆとり

いささかのんきに見える話題かもしれませんが、都市対抗野球の予選が各地ではじまっています。 この大会、本大会はトーナメントなのですが、予選は各地域の自主性にまかされています。補強制度もありますから、できるだけ強いチームが出られるように予選のや…

甘い顔

大野達三『「昭和維新」と右翼テロ』(新日本出版社、1981年)です。 頭山満や北一輝の流れから、2・26事件にいたろうとする、右翼思想とその実戦部隊のありようを述べています。関東大震災を口実にした大規模な虐殺が、責任の所在をあいまいにしたまま流さ…

つくってしまう

台湾で水利に貢献した日本人技術者を記念した像が壊されたのが修復されたとのことです。 映画「KANO」で大沢たかおが演じた人なのだそうですが、映画でも、野球少年たち(農林学校ですからそうした意味でも水利とは縁があります)をはげます人として描か…

ちょっと意外

岩波文庫創刊90年ということで、『図書』の臨時増刊で、各界の人が選んだ「私の三冊」という特集がされています。 いろいろとなるほどとおもうところもあるのですが、あってもいいのに誰も選ばなかった三点を選んでみましょう。 『北越雪譜』(鈴木牧之) こ…

当事者

有吉佐和子『海暗』(文藝春秋、1968年)です。 1964年、伊豆諸島の御蔵島に米軍の射爆場が本土から移転するかもしれないという計画がでて、島に防衛庁の調査がはいったが、結局は不適とされたという事件を背景に、島に生きる80歳の老婆とその周辺の人たちの…

大義名分

呉座勇一さんの『応仁の乱』(中公新書、2016年)です。京都を巻き込んだ乱の推移を、興福寺の中枢にいたひとの残した文書を使いながら読み解いてゆくという、史料を使った叙述の手堅さが感じられます。もともとは畠山家のお家騒動にほかの大名が加担したと…

しみこむ

高野邦夫さんの『軍隊教育と国民教育』(つなん出版、2010年)です。 陸海軍の学校ではどんな教育がされていたのかを、実証的にとらえようとしたものです。軍隊の存在が、日常のものとして社会にうけいれられていた時代に、どういう形で軍人として〈成長〉さ…

上と下

麻田雅文さんの『シベリア出兵』(中公新書、2016年)です。 一般向けの新書ですから、概説となるのは仕方のないことだとは思いますし、現段階で出てきている史料をうまく使って、全体像をつかませることには成功していると思います。 ただ、実際に出兵した…

意表をついて

地方紙に連載されていた谷村志穂さんの「風は西から」が完結しました。(新聞によってはまだ連載中のところもあるかもしれませんが) 最初は、若い男女が出てきて、男は家業の居酒屋を継ぐための修業として、とりあえず大手居酒屋チェーンで正社員としてはた…

それでも続いている

関川夏央さんの『退屈な迷宮』(新潮社、1992年)です。 著者が南北朝鮮を訪れていろいろと感じたことを記録したもので、1980年代末の朝鮮半島の状況がよくみえます。この時代からすでに北朝鮮はすさまじい状況下にあったことはわかるのですが、当時の東欧の…

秩序まで

松沢裕作さんの『自由民権運動』(岩波新書、2016年)です。 戦争のあとには、それまでの社会秩序がこわれ、新しい社会のありようが希求される、戊辰戦争のあとにおきた、新しい社会を求める動きがいわゆる自由民権なのだという意識で、当時の運動にかかわっ…

ちょっとの瑕疵

川村湊さんの『村上春樹はノーベル賞をとれるのか?』(光文社新書、2016年)です。 著者は、毎年のように、ノーベル賞の季節になると、村上春樹がとるのではないかというメディアの期待のために、テレビ局に待機することがあるのだそうですが、そうした経験…