泣ける話

漢文で、忠犬の話はいくつかあるのですが、そのなかで、犬が銀を守って死んでしまう話があります。けっこう泣ける要素があるかと思うので、原文と訳(試訳ですが)をあげておきましょう。 秦中有商於外者、帰挈一犬以行。抵黄河。行嚢在船、候人満乃渡。偶腹…

空気のゆくえ

海野弘『風俗の神話学』(思潮社、1983年)です。 1980年代初めに書かれた、都市論に近い文章をあつめたもので、ある意味時代の先端を突っ走っているようなところもあるし、その後のポストモダンやら、1920年代ブームやらを予感させるようなものもあって、そ…

なまなましい

美濃部亮吉『苦悶するデモクラシー』(角川文庫、1973年)です。 1958年~59年にかけて雑誌に連載したものだそうですが、戦前の大学人にたいしての言論の圧迫の実態を回想しています。著者自身も、いわゆる〈教授グループ〉への弾圧のために、治安維持法違反…

移行

はてなダイアリーにあった記事をこちらに移行しました。今後とも、ごひいきに。

手抜き

窪川鶴次郎『東京の散歩道』(講談社文芸文庫)を見ていたら、いつも巻末にある、単行本や文庫本のリストが存在しません。窪川の文庫本が出るのはほんとうにひさしぶりだというのに、こういう扱いを受けるというのは、釈然としないものがあります。

インターバル

さくらももこさんが亡くなられました。 たしか『学生新聞』だったと思いますが、さくらさんのエッセイについての寄稿を求められたときに、エッセイもいいが、本業の「ちびまる子ちゃん」について書かせてもらいたいということを申し出て、受け入れられたよう…

どうせやるなら

鴻池留衣さんの「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」(『新潮』9月号)です。 あるバンドの盛衰を、ウィキペディアの記事仕立てで記すという作品なのですが、文章がちっともウィキペディアの文体模写になっていません。内容以前の問題ではないでしょうか。

人情ばなし

北嶋節子さんの『エンドレス』(コールサック社)です。 つながっているような作品5つからなる短編集なのですが、ホームレス支援の話であったり、小学校で良心に従って行動することのむずかしさを書いた話であったりと、日常のなかでの希望のありようを描い…

都合の悪さ

辻田真佐憲さんの『大本営発表』(幻冬舎新書、2016年)です。 大本営発表がだんだんとでたらめになっていくプロセスを、きちんと追いかけています。そこと、メディアが共犯者になったように、あおりたてるというのも、決して昔話とはいえないのでしょう。都…

こんなところにも

古山高麗雄『兵隊蟻が歩いた』(文藝春秋、1977年)です。 著者が召集されて戦地に赴いた、フィリピンやシンガポール、マレーシアやビルマを、1975年〜76年にかけて再訪したときの文章です。著者は、再訪の過程で、日本軍がどんな軍隊だったか、それが現地の…

命日

今日は川端康成が亡くなった日だそうです。もう46年になるのでしょうか。 新感覚派としての川端のおもしろさが一番出ているのは「水晶幻想」かとも思うのですが、そういうものを書きながら、時評をしっかりと書いていたというのも、考えてみるとみごとだった…

併走

『現代日本の批評』(講談社、全2冊、2017年〜2018年)です。 東浩紀さんの『ゲンロン』の流れで、講談社の文芸文庫にはいっている『近代日本の批評』を意識しながら、その続編といったおもむきで、1975年からの批評のながれをシンポジウム風にまとめたもの…

同じ場所で

金子兜太さんが亡くなられました。何年か前に、文団連だったかの集会でお話をされたのをうかがったことがありますが、その時はあの『……許さない』の揮毫をされた直後だったかと思います。 金子さんは戦時中に兵士としてトラック島に駐屯して、孤立させられる…

なぜ誰も

カズオ・イシグロ『遠い山なみの光』(小野寺健訳、ハヤカワ文庫、2001年、原作は1982年)です。 イギリスに住む日本人女性が、最初の夫との子を宿して長崎に住んでいたころを回想するというできごとを軸とした物語で、のちのイシグロの作品を予想させる、人…

真剣度

オリンピックの入場行進、ハングルの順番だそうです。2008年の北京でも漢字の順番だったわけですから、2020年には、五十音順にしなければ、やる人たちが、ほんとうに自国の文化や伝統、言語を大切に思っているのかどうかがわかりますね。口先だけで、「この…

底に流れる

『近代社会主義文学集』(角川書店『日本近代文学大系』内、1971年)です。 このシリーズは、近代文学に注釈をつけるという、なかなかおもしろい取り組みをしたもので、いまは明治や大正時代の作品には、文庫本では注がつくものが多くなっている先駆にあたる…

西に向かう

今年のセンター試験の小説は、井上荒野さんの「キュウリいろいろ」です。ハルキ文庫の『キャベツ炒め…』とかいう作品集に収められているとか。 40年ほどの結婚生活を経て夫を亡くした女性が、夫のふるさとを訪れる場面です。夫婦の間には子どもが一人いたの…

注目度

高校サッカーの開会式ハイライトの番組を見たのですが、入場行進の場面で、全チームは紹介されず、たぶん制作者の目から見て注目のチームだけが映像として流れました。 これが、高校サッカーの現状だというのならばそれまでですが、CS放送も含めてこれでいい…

勝ってはいても

火野葦平『陸軍』(中公文庫、全2巻、2000年、親本は1945年)です。 もともとは1943年5月から1944年4月にかけて「朝日新聞」に連載されたさくひんで、単行本になる前に映画化されたというものです。北九州の一家の歴史に、陸軍がどうかかわっていたのかを描…

外と内

温又柔さんの『来福の家』(白水Uブックス、2016年、親本は2011年)です。 温さんは台湾出身なのですが、おさないころに、両親の仕事の都合で日本に住むようになり、日本語の世界のなかで生きてきた方です。カズオ・イシグロの逆のような感じですね。 この…

重複

岩波文庫から大岡信の『日本の詩歌』が出たのですが、岩波現代文庫で出たものに、池澤夏樹の解説を付加したものです。すでに、それを持っていたことをすっかり忘れて、だぶって買ってしまいました。こういうこともあるのですね。解説料として700円払ったよう…

議論のはて

石川啄木『雲は天才である』(角川文庫、1969年)です。 表題作ほか計4作品を載せているのですが、啄木自身が生活者としてやはり何か欠けている点があるのか、登場人物たちもいろいろと議論をしてはいるのですが、どうしてもそこに血が通っていないようにみ…

未練

希望の党から立候補するための誓約書みたいなものが、報道の画面に出てくるのですが、そのなかに、「外国人の地方参政権の付与に反対」という趣旨の文言があります。 代表の方が、関東大震災のときの朝鮮人虐殺があったと認めないかたですから、当然といえば…

吟味すれば

選挙になると、「しがらみのない」というフレーズが人気のようですが、投票してくれた人を「しがらみ」と思うということは、「自分は好き勝手にやりたい。投票してくれた人の気持など考えるつもりはない」という意思表示になると思うのですが、それでもそう…

広がり

『江戸詩人選集』(全10冊、岩波書店、1990年〜1993年)です。 共通一次試験の第1回は1979年だったのですが、そのときの漢文の出題は、菅茶山に関する文章でした。富士川英郎 『江戸後期の詩人たち』(近年平凡社の東洋文庫にはいったとか)に引用されていた…

あっという間に

岩波書店の新刊案内に、オンデマンド出版の告知があります。9月にあるのが、『加藤周一自選集』の中から何冊かが選ばれています。 まだ、刊行されてから10年もたっていないのですし、ふつうに書店でも在庫があるのではないかと思うのですが、もう、通常の形…

4年ぶり

ひさしぶりに岩手県の沿岸部に行きました。あちこちで防潮堤がつくられていて、道路から海が見えなくなるところが多くなっていくようです。 山田線の三陸鉄道に移管する部分の復旧工事も少しずつ進んでいて、山田の駅も跨線橋が復活しています。 まだ地図の…

現場感覚

高田高史さんの『社史の図書館と司書の物語』(柏書房)です。 神奈川県立川崎図書館は、産業系の資料に特化した図書館なのですが、そういう関係で、いろいろな会社の社史が集められています。著者は、そうしたものをどのように活用していくのか、そもそも図…

個か孤か

井田茂さんの『系外惑星と太陽系』(岩波新書)です。 このところの系外惑星の発見にともなって、太陽系の成立に関しても、系外惑星系の成立と太陽系の成立とを両方とも統一できるようなモデルが必要になってきたというのだそうです。 物理や化学の世界では…

さきがけ

荻野富士夫さんの『北洋漁業と海軍』(校倉書房、2016年)です。 20世紀の北洋漁業と、日露関係のなかで、海軍がどう動いてきたか、民間業者との関係はどうだったのかを追求したものです。 実際には、1920年代までは、現地に根拠地をおいて、そこで加工した…