なまなましい
美濃部亮吉『苦悶するデモクラシー』(角川文庫、1973年)です。
1958年~59年にかけて雑誌に連載したものだそうですが、戦前の大学人にたいしての言論の圧迫の実態を回想しています。著者自身も、いわゆる〈教授グループ〉への弾圧のために、治安維持法違反のかどで検挙された経験をもつので、証人としても意味のあるものになっています。
研究そのものを弾圧するということだけでなく、当時の知的共同体そのものを破壊するところまできていたかと思うと、決して80年前のこととはいいきれないものを読み取ってしまいます。
最終章は、1932年~34年にかけて著者がドイツに留学していたときのことを書いていて、NSDAPが政権をとって独裁体制をつくりあげていくところを実際に目の前で見ていたということも、考えさせるものがあります。
こういう本こそ、再刊されてしかるべきかと。
人情ばなし
北嶋節子さんの『エンドレス』(コールサック社)です。
つながっているような作品5つからなる短編集なのですが、ホームレス支援の話であったり、小学校で良心に従って行動することのむずかしさを書いた話であったりと、日常のなかでの希望のありようを描いています。
たしか、松本喜久夫さんが、「悪いことをする子はいても悪い子はいない」という立場で書くという趣旨のことを話していましたが、北嶋さんの立場もそれに近いような感じがあります。子どもはほとんど登場しない作品集ではありますが。